第七回007 TV吹替声優紹介〜第二期 悪役・脇役編〜
 

 第二期の悪役声は、シリーズ中で最もバイタリティに富む最強布陣ですよ~ 脇役も個性的キャラが揃っています。

 

 『ダイヤモンドは永遠に』では、遂にブロフェルド御大がボンドと対決! だけど中のひとは『007は二度死ぬ』で日本駐在員アンダーソンを演じていたチャールズ・グレイ。『二度死ぬ』では飯塚昭三(この人も007TV吹替の常連)だったので、今回も飯塚氏が引き継ぐと思ったら、まさかの大御所配置! 映画やTVドラマで大活躍の内田稔氏が登場。松田優作の「探偵物語」の最終回で、黒幕の一人としてトイレで殺される、アノ人です!(例がマイナーすぎるか…)小山田宗徳氏亡き後、ヘンリー・フォンダを引き継いだ方。日曜洋画劇場版『ランボー』のトラウトマン大佐ですよ!
 品があり落ち着いた内田の声で、ブロフェルドの迫力が倍加。悪そうなのに余裕がある態度が、声から伝わります。ラストで潜航艇をボンドにおもちゃにされて、キレまくるギャップがまた良し。
 内海賢二=コネリー版では、小林修が担当。『荒野の七人』のユル・ブリンナーなど渋いイメージがありますが、本作のブロフェルドでは多少軽めでコミカルに演じています。内海コネリーが濃いパワーで押してくるので、受け太刀はコミカルさでという演出の配慮かもしれません。

 

 

 『死ぬのは奴らだ』のミスター・ビッグ=ドクター・カナンガ役で、内海賢二が『ロシアより愛をこめて』のグラントに続き、シリーズ悪役で再登場。今回は、堂々のメイン悪役で、しかも二役。でもアノ声なので、観た瞬間にカラクリは分かってしまいますが(笑)。裏社会のドンであるミスター・ビッグのときは、がなりたてるヤクザ声ですが、黒幕のカナンガとして喋るときは、風格ある喋りで、余裕あるボンドの敵役になっています。ちなみに、本作のリピート放送で、声優が一新された新録TV吹替版でも、内海氏はカナンガ役で再登場しています。

 

 

 『黄金銃を持つ男』は、原作者イアン・フレミングのいとこで、ドクター・ノオ役としても検討されていたクリストファー・リーが、満を持してのシリーズ登場。携帯道具から組み立てるという、カッコイイけど珍奇な"黄金銃"を持ち、正体不明の伝説の殺し屋という、ちょっとミステリアスなキャラクター。放送前は、ハマー作品のドラキュラ・シリーズで何作か声を担当した家弓家正になるのかな~と思いきや、フタを開けるとFIXの千葉耕市が登場で嬉しいサプライズ(ちなみにドラキュラ・シリーズでは、千葉氏はピータ・カッシングが多い)。低音で少しかすれた千葉氏の独特の声は、他に例を見ない個性的なものでした。スカラマンガの不気味さと神秘性が、千葉氏の声でさらに魅力的なものになっていますので、これは必聴ですよ!

 

 

 『私を愛したスパイ』では、ドイツ映画界の大物クルト・ユルゲンスがストロンバーグ役で登場。全編ほとんど座っているだけですが、さすがの風格と迫力でオーラが出まくり。『サンダーボール作戦』のラルゴに匹敵する、"側にいるだけでコワい"悪役です。これは吹替の声にも期待がかかりますが、担当したのは鈴木瑞穂。こうきたか! あの『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネの声を完璧に再現かつ大熱演した方ですよ! もう狙っているとしか思えませんね。抑えたトーンの淡々としたしゃべりが、逆に底知れぬ悪意をうまく表現していました。
 リピート放送の新録版では、チャールズ・ブロンソン、リチャード・ウィドマークの声で有名な、大塚周夫が担当。いつもより低音の落ち着いた雰囲気で、ストロンバーグを演じています。ときおりみせる、ちょっと嫌味なトーンが、キャラのワル度をアップさせている点にも注目です。

 

 

 『ムーンレイカー』のドラックスの声で、またまた内海賢二が登場。こちらも人類抹殺をもくろむ、だいぶイカれた大悪人。『死ぬのは奴らだ』では、黒人の悪役ということで、どことなく"ブラザー感"が漂っていた内海氏の喋り方も、本作では堂々とした喋り。声は同じにしか聞こえないのに、違ったキャラをきちんと演じ分けることができる内海氏の実力に乾杯!(ドラックスの声を聞いても、スティーブ・マックイーンの顔は浮かんできませんからね)
 ドラックス役のミシェル・ロンズデールは、『ジャッカルの日』でジャッカルを追っていた人ですが、顔が柔和でちょっと迫力不足なんですな。これを内海氏の悪人声が補っているのがポイントなわけです。

 

 

さて、ここからは脇役をチョイスして紹介です。

 『死ぬのは奴らだ』はシリーズ中で最も怪奇色が強く、悪の手先もホラー入ってます。まずは、ミスター・ビッグの右腕のティーヒー。片腕が義手で、いろんなものをチョン切ろうとします(ボンドのナニとか)。底意地の悪さもなかなかのもので、ワニの池にボンドを残して、ハードルの高いアドバイスを与えたりします。
 声を担当した田中康郎は、レギュラーでQの声を演じていた人です。本作はQが登場しないので、その代わりティーヒー役で登板なのですが、もともと田中氏は悪役のほうが多いんで、むしろ違和感なし。野太い低音の声で、ボンドを追い詰めます。リピート放送の新録TV吹替でも、田中氏が再登板しています。

 

 

 そして忘れてならないのがサムディ男爵。演じるジェフリー・ホールダーはダンサーでもあり、軽快な身のこなしに特徴があります。本編では不気味さに拍車をかける存在ですが、その実、何をやっているかよく分からないキャラでもあります(笑)。ボンドとの対決では、あっさり返り討ちにあって毒蛇がうごめく棺おけにダイブ。初回版では、「月曜ロードショー」の予告編ナレーションも努めていた、蟹江栄司が担当。リピート放送のTV吹替では、銀河万丈。今考えるとなんとも豪華なキャスティングでした。

 

 

 『黄金銃を持つ男』のニックナックは、スカラマンガの執事のような立場でありながら、彼が死ぬと遺産を相続できるため、(スカラマンガの要請のもと)殺し屋たちを差し向けるという、特殊な設定のキャラクター。基本的には陽性のコミカルなキャラクターで、声を担当したのは『007は二度死ぬ』でブロフェルドを演じたた辻村真人。ブロフェルドとはうってかわって、甲高い声でボケをかましまくるのは、さすがの名人芸。

 

 

 そして…お待たせしました!第二期の陰の主役、"ジョーズ"!『私を愛したスパイ』で人喰いザメと対決したあげく、基地の大爆発からも生き残り、『ムーンレイカー』でドラックス産業へちゃっかりリクルート。2メートル18センチの巨漢を前に、ボンドもまるで子供のよう。崖から車ごと落ちても、上着をはたくだけでキズ一つない鉄人ぶり。あまりにも人間離れしたマンガチックなキャラクターは、女性と子供にも大人気で、007ファンの幅を広げるのに貢献した(はず)。『私を愛した…』では一言も喋りませんでしたが、『ムーンレイカー』のラストでせりふアリ!世の中の子供たちは、「ジョーズが喋った」と大騒ぎした(はず)。その声は、またもや銀河万丈。太い低音は、ジョーズのイメージにはドンピシャでしたね。

 

 

 トリはやっぱりこの人、ペッパー保安官。南部の田舎のアメリカ人の象徴のようなキャラクターで、生きが良くて、人もいいという、まるで日本の江戸っ子。『死ぬのは奴らだ』ではモーターボートで暴走するボンドを追いかけ、『黄金銃を持つ男』ではボンドとともにスカラマンガを追うという、おいしい役。
 これを『ゴールドフィンガー』でゴールドフィンガーを演じた滝口順平が登場。氏はどんなキャラを演じても、本当に上手いですね~。ペッパー保安官役でも、横柄で時々キレつつ、憎めない雰囲気を漂わせる妙技をご覧いただけます。

 

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