第十回007 TV吹替声優紹介〜第四期 ボンドガール〜
 

  第四期になると、ボンド・ガールといえども男並に大活躍。しかも複雑な世相を反映してか、悪の側につく"ボンド・バッドガール"も増殖! Mも女性になり、『スカイフォール』につながるボンドとMのサーガも、この期から始まります。

 

  新生ボンド=ブロスナンの『ゴールデンアイ』は、敵味方で二人のボンド・ガールが登場します。ボンド側につくのがイザベル・スコルプコ演じるナターリャで、声の担当は日野由利加。東欧系美女の役なので、低めの落ち着いたボイスで演じています。
 一方的側はファムケ・ヤンセン演じるオナトップ。シリーズでは過去何人も女性の敵は出てきましたが、お色気ムンムン度では『サンダーボール作戦』のフィオナを超えていますね。その声は、キム・ベイシンガーやシャロン・ストーンの声を多く担当してきた小山茉美が演じています。ボンドを翻弄する不敵さと、大人の女性の色気が同居する、見事な声の演技でした。

 

 

 『トゥモロー・ネバー・ダイ』は、珍しい東洋系のボンド・ガールとして、香港映画界からミシェル・ヨーが大抜擢されました。ブロスナン=田中秀幸版では、深見梨加が声を担当。中国の外安保隊員というキャラクターなので、知性と落ち着きを感じさせる声で演じています。
 ブロスナン=江原正士版の佐々木優子は、エリザベス・シューやリー・トンプソンなど、ティーンエイジの声を演じることが多いのですが、キャリア・ウーマン的女性の声も上手い方です。本作では、気品を漂わせながらも、キャラクターの芯の強さも表現していました。

 

 

 『ワールド・イズ・ノット・イナフ』では、メインのボンド・ガールがラス・ボスという、シリーズ最大の超・変化球!(ネタバレすんません)そのキャラを演じるのはソフィ・マルソー。あどけなかった『ラ・ブーム』の頃から考えると随分と成熟したなあ、と感慨に浸りたくなるほどセクシー女優になって、007シリーズに登場。
 声は、前作『トゥモロー・ネバー・ダイ』のボンド=江原正士版でボンド・ガールの声だった佐々木優子が再登場。ああ、とうとうボンド・ガールの声優も敵役を演じるようになっちゃった…
 しかし、佐々木氏の声の演技は見事で、はじめは被害者と思わせて、実は裏でテロリストと一緒に世界転覆を企てるという悪女を、違和感なく表現できています。特に、ボンドを拷問イスに縛り付けてから後の、ワル全開の声には注目です。

 

 

  『ダイ・アナザー・デイ』も、敵味方のボンド・ガールが面白い一本です。そして、メインのボンド・ガールに黒人が起用されたのは本作が初めてですね。その役を『チョコレート』でアカデミー主演女優賞を受賞したハリー・ベリーが演じていますが、ボンド並みに活躍する敏腕のCIA局員なので、アクションもバリバリにこなしています。声の担当は、洋画や海外ドラマの吹替で大活躍の安藤麻吹。ボンドをちょっとライバル視している役柄なので、少し居丈高で気が強いイメージで声を演じています。実は安藤氏は『チョコレート』でもH・ベリーの声を担当していますので、本作での起用はちょっと粋なキャスティングですね。
 一方、敵側に寝返る女性諜報員のロザムンド・パイクの声は、石塚理恵が担当。彼女は元気な女性やティーンの声が多いのですが、本作では何を考えているか分からない悪女を、いつもより低音の声で演じています。クライマックスでH・ベリーと剣で格闘する場面の掛け声は、ちゃんと石塚氏が演じていて、ドスの利いた叫び声の大熱演で、本編の聴きどころのひとつですよ~。

 

 

 『カジノ・ロワイヤル』のエヴァ・グリーンの声を担当した冬間由美は、アニメ畑のスター声優として有名な方ですが、洋画や海外ドラマでも永らく活躍している方です。アニメでは絵に負けないよう強いトーンの声が要求されることが多く、アニメ出身の方には洋画吹替でそのクセを引きずってしまう方がいますが、本作の冬馬氏の演技は、発声も息づかいもナチュラルで素晴らしいのひとこと。しかも、澄んだ美しい声に上品さが漂い、ボンド・ガールに相応しい仕上がりです。

 

 

 『慰めの報酬』は、TV放送用に吹替が制作されなかったため、本シリーズのために『カジノ・ロワイヤル』のTV放送吹替キャストを踏襲した"TV放送吹替キャスト・新録版"が制作されました。もちろん、『カジノ…』に登場していないキャラクターは、新たに声優をキャスティングしています。但し、過去の007のTV放送吹替版に出演したことのある声優を、最大限起用するという決め事のもと、配役されています。
 まずはカミーユ役のオルガ・キュレリンコ。声を担当したのは、『カジノ・ロワイヤル』のオーシャン・クラブの受付嬢で印象的だった武田華。男の子の声が多く、声質が可愛らしい方なのですが、本作ではクールな声の中に可憐さを盛り込みつつ、芯の強さを前面に出した声で演じています。とてもアニメの「チャウダー」の方とは思えません(笑)。
 そして、もう一人のボンド・ガール、ジェマ・アータートンの声には、『リビング・デイライツ』(テレビ朝日版)と『ゴールデンアイ』でマネーペニーの声を担当していた加藤優子を抜擢。まさに"007 TV放送吹替"人事(笑)。本作では、控えめなマネーペニーとは違って、最初は仕事に真面目な堅物女性が、ボンドと接するうちに大人の女性へと変化してゆく様が、声でちゃんと表現されています。

 

 

 最後に紹介するのは、ボンドを影で支え続けた真のボンド・ガールこと"M"。ブロスナン時代から、最新作『スカイフォール』まで、シリーズ7作品を通じて"女性M"として登場しました。演じたジュディ・デンチの声は、『ゴールデンアイ』は森田育代、『トゥモロー・ネバー・ダイ』のフジテレビ版では谷育子(『スカイフォール』でもMの声を担当)ですが、『トゥモロー・ネバー・ダイ』テレビ朝日版以降、『慰めの報酬』TV放送吹替キャスト・新録版まで、すべて沢田敏子が担当しています。過去のコラムでも触れていますが、『ダイヤモンドは永遠に』内海賢二版、『ユア・アイズ・オンリー』でボンド・ガールの声を担当しています。そういった意味でも、Mはボンド・ガールといえるでしょう(違うか)。

 

ページトップへ