第六回TV放送吹替版のブロスナン=ボンドの声
〜田中秀幸 スペシャル・インタビュー〜
 

聞き手:とり・みき

──声のお仕事を始められたきっかけは?

 劇団に入ってからも、ちょこちょこと声の仕事をやってはいたんです。中学とか高校でも吹替みたいな仕事はやっていましたし、その頃のことを知ってらっしゃる方が声を掛けてくださって、青年座の時でも声の仕事はけっこう多かったですね。

──アニメと吹替のどちらが先でしたか?

 "最初の声の仕事は何ですか?"と聞かれても、はっきりと答えられないんです。アニメでは『ドカベン』の山田太郎がレギュラーの最初だと言ってしまっているのですが……多分吹替の方が先だったと思います。よく覚えてはないのですが、NHKの『南海のテリー』というシリーズを中学の時にやっていたことだけは、記憶にあるんですよ。NHKの局の中で録っていた気がしますね。当時まだ新橋の内幸町にあった頃のNHKです。

──『ドカベン』の山田太郎は、当時の主人公キャラとしてはズングリムックリしているし、目も黒く潰れたハッキリしない目だし、なかなかキャラクターを出すのが難しい気がしました。

 それを言えば、僕はピアース・ブロスナンともイメージが違いますよ(笑)。

──ブロスナンは007ですからキャラクターがはっきりしていますけれども、田中さんがよく声をアテていらっしゃるケビン・スペイシーやマイケル・ビーンは2人ともあまり表情を変えない。画面に登場しても善人なのか、悪人なのか分かりにくい。そういう人たちをアテる難しさ、あるいは面白さというものはあるんでしょうか?

 2人とも僕は好きです。マイケル・ビーンは、わりとアテやすいというか、芝居が自分の生理に合っています。それも含めてキャスティングをして頂けたんでしょうね。外画の場合はどうしても翻訳によって、演じやすい、演じにくい場合があると思うんですが、マイケル・ビーンはすんなり入っていけました。ケビン・スペイシーは、ちょっと変な役が多いですよね。僕は彼の芝居も好きですし、演じる側からすると、演じがいがありますよ。2人とも好きな俳優です。

 

──2人とも吹き替えるのが難しそうに見えたりもするのですが、むしろその方が演じがいがあるということでしょうか。

 はっきりとキャラが立ってしまうというよりも、内面的なもので引っ張って行く、そういう俳優の方が僕は好きですね。

──それに比べると、ピアース・ブロスナンは007ですから、明確なキャラクターです。そのお仕事が来た時は、どうお感じになったのでしょうか。

 僕らの世代というのは、初代ショーン・コネリーのイメージがあまりにも強すぎて、"(ブロスナンのボンドは)どうなんだろう?"と思ったのですが、最初に観た時から"これはキャラクターがピッタリ! 本当にボンドらしいな"と、何の抵抗もなく受け入れられました。ショーン・コネリーとはまた別のボンドなんだと、少なくとも僕の中ではすんなりと受け入れられましたね

──ジェームズ・ボンドを演じていて楽しいところは?

 楽しいことは楽しいですが、アクション・シーンが多いこともあって、ボンドは台詞が少ないんですよね(笑)。僕の場合は日本版キャストの周りの方々、特に敵役が羽佐間(道夫)さん、古川(登志夫)さん、池田(秀一)さんなど、しっかりした方だったので、自然とボンドのキャラが立ってくるという、ある意味やりやすい主役ですよね(笑)。

──田中さんをボンドに配役したのは、局のプロデューサーだったのでしょうか。

 経緯は聞いてないのですが、恐らくテレビ朝日のプロデューサーとディレクターとの両方の意見が合って、キャスティングして頂けたんじゃないかと思います。

──ご自身がアテられた007作品で、特に気に入っているのは?

 『ダイ・アナザー・デイ』でしょうか。最後にボンドの声を演じた作品ということもありますが、4作目となると、ピアース・ブロスナンのボンドがどんどん磨きがかかってきたな、という印象を受けました。

──ファンとして観た場合、007シリーズの中でお好きなのはショーン・コネリー時代ですか?

 やはりそうですね。でも、ピアース・ブロスナンの007も好きです。

──ブロスナンは二枚目ですが、時々すごくワイルドになる瞬間というのがあったりして、その時にかなり声を荒げるところが新鮮だったんですが、何か意識されていたことはありましたか?

 特に意識していたことはありませんが、やはり向こうの芝居に合わせてやったという感じですかね。

──「日曜洋画劇場」のブロスナン=ボンドの吹替版を演出した福永莞爾さんにもお話を伺ったのですが、ボンドが危機に陥るシーンは、目一杯感情を吐き出して激しくやってくれ、と注文を付けたと仰っていました。

 先ほどの質問の答えが、それかもしれません(笑)。

(2013年3月18日 於:東北新社にて 協力:東北新社)

※上記以外に、子役時代のエピソード、長期TVシリーズの声優仲間との交流など、貴重なお話しを伺いました! インタビュー完全版については、「007 TV放送吹替初収録特別版 DVD-BOX 第四期」同梱のブックレットに収録しております!

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