第二回007の最長・最良のTV吹替版の作り方
今回の商品の最大のポイントは、過去に「月曜ロードショー」等で放送された、007作品の最長かつ最良の吹替音声を収録する点です。
007シリーズのTVでの初回放送は、通常枠より30分ほど拡大されることが多く、正味で120分程度の吹替版が放送されていました。ところがこの拡大枠はほとんどが一度限りで、二回目の放送からは通常の放送枠となり、吹替も92分程度にカットされてきました。カットされた部分はいつしか廃棄され、拡大枠で放送された007作品も、2時間枠に収まる90分前後の吹替素材のみとなってゆきました。
一方で、最初から拡大枠ではなく、通常枠で放送された作品の吹替は無事だったのでしょうか。残念ながら答えは「いいえ」です。洋画の正味時間は、時代ととにどんどん短くなっています。70年代は、2時間枠の洋画劇場で放送される映画の正味時間は95~94分でした。80年代より正味時間は減りはじめ、現在は92~90分になっています。数分の吹替音声がつままれ、これまたカット部分は廃棄されてきました。例えば、『007は二度死ぬ』は初回から2時間枠での放送ですが、2000年代の初めに放送されたものは、アキがボンドに日本人の整形メイクをするシーンなどの吹替がカットされ、同じ2時間枠にも関わらず、初回放送に比べて5分近くもカットされています。ショーン・コネリーとロジャー・ムーア作品に限っていえば、現在残っているTV放送用の吹替版素材は、延長枠・通常枠にかかわらず、すべて初回放送版からカットされた"不完全版"吹替です。
そこで、一般の方が録画・録音された初回放送版の音源を集めることになりました。ご有志の方々のおかげで、まさかの日高晤郎版『ロシアより愛をこめて』も含めて、すべての作品の初回放送版が集まりました。通常、70年代の録画・録音は、募集をかけても出てこないことがほとんどなので、今回はまさに"奇跡"。なかにはベータ以前のUマチックテープで録画されたものもあり、007ファンの凄さを思い知らされました。ご協力者の方々には、心より御礼申し上げます。
さて、いよいよ本題です。今回の「最長・最良」の吹替版は、どうやって再現されたのでしょうか? まず優先したのはは「最良」の音質です。できるだけ複数の素材を集め、そこから音質が最良のものから順にランクを付けてゆきます。放送用素材が残っているものは、それが一番良い音質になります。次点がHi-Fi録画です。その後が、標準録画やカセット録音などになります。
ですが、現存する放送用素材はカット版がほとんどです。Hi-Fi録画にしても、Hi-Fi機が登場したのが1983年ですからリピート放送の録画であり、初回放送からカットされたものになります。ここで「最長」の登場です。初回放送などの録画や録音から足らない部分を補完してゆくわけです。古い録画は、放送用素材に比べて音質が多少劣るので、イコライザーなどで可能な限り音質を上げてゆきます(←ここポイントです!)
通常は、異なる吹替素材を合わせて編集する場合、音質の劣るほうに全体を合わせて平均化するというのがセオリーです。悪い音の質を高めるのは非常に困難ですが、良い音のクオリティを下げるのは非常に簡単だからです。しかし、せっかくの良い音質を、他の部分に合わせて悪くするのはもったいない。補完された部分と多少音質の差が出るとしても、最良の音質はそのままにして、皆さんに楽しんでいただきたいと考えました。ですので、今回の商品の吹替音声は、補完された部分の音質が多少変わるものがあります。ご了承ください。
こうして出来上がった「最長・最良」の吹替版ですが、007映画はもともと上映時間が長いものが多く、放送枠に合わせてカットされた部分がまだ残ります。
そこで採用された、大胆かつ無謀な方法とは!? (以下、次回に続く)