第三回007 TV吹替声優紹介 〜第一期 悪役・脇役編〜
 

 さて今回は悪役・脇役編。こちらも数が多いので、第一期発売の『ドクター・ノオ』から『女王陛下の007』までを取り上げます。

 

 まずはメインの悪役から。第一作『ドクター・ノオ』では、中国人とドイツ人のハーフであるノオ博士の声を、横森久が担当しています。横森氏は時代劇などで大活躍する一方、洋画やアニメの吹替も行っていた俳優です。ちょっとかすれ気味で理知的な声は、得体の知れないノオ博士の神秘性を引き立てていました。ちなみに横森氏はハマー映画の『吸血鬼ドラキュラ』などでピーター・カッシングの声を担当していて、気品のある声で演じておりました。

 

 

 『ロシアより愛をこめて』は、悪役の宝庫。まずはグラント役の内海賢二。「大将、大将」と調子のいい軽めのキャラを披露したかと思えば、ボンドの前で正体を現して冷酷な声へ変貌する凄いテクニックに注目。コメディも悪役も得意な内海氏だからこそ、可能だった声の演技です。

 

 

 『ロシア』で強烈な印象を残すクレブ大佐の声を担当した沼波輝枝は、コワいおばさん専門の方。『女王陛下の007』でもブロフェルドの手下のイルマ・ブントを演じています。沼波氏は「仮面ライダー」などのショッカー怪人の声なども演じていらしたんですね。どうりで怖いはずだわ(笑)。

 

 

 『ロシア』で忘れてならないのは、クロスティーン役の寺島幹夫。若山版・日高版の両方に同じ役で出演しています。「ガッチャマン」のベルクカッツェの声といえば、40代以上の方は皆さんご存知でしょう。洋画・アニメの吹替の脇役でもの凄い数に出演されている、名バイプレイヤーです。『ドクター・ノオ』の文科系殺し屋・デント教授の声も、この人です。

 

 

『ゴールドフィンガー』では、タイトルにもなった007史上屈指のヤバい悪役ゴールドフィンガーを、滝口順平が担当。この方も出演作は数えきれないほどで、その声は知らない人はいないほど。「ヤッターマン」のドクロベエ。「ぴったんこカンカン」「ぶらり途中下車の旅」のナレーションといえば、すぐに声が浮かぶことでしょう。ゴールドフィンガーの持つコミカルさと狂気を、十二分に表現していました。
 日高版のゴールドフィンガーは、能楽師で俳優でもあった観世栄夫が担当するという異色の配役。口元に粘りつくような独特の喋り方が、ゴールドフィンガーというキャラクターの異様さを倍増させていたように思います。

 

 

 『サンダーボール作戦』のラルゴは、シリーズ中でも抜群の迫力を持つ悪役です。アイパッチが怖さを引き立てていて、一緒の席では絶対に食事したくない相手(笑)。その声を演じたのは、島宇志夫。島氏はカール・マルデンのFIX声優で、柔らかい演技やコメディ演技も得意な方ですが、本作での硬質な声質と演技は、ボンドも一歩下がりそうなパワーがありました。

 

 

 『007は二度死ぬ』でいよいよ姿をあらわしたブロフェルドの声は、辻村真人が担当しました。吹替の創世記から活躍されてきた方です。スペクターのNo.1だけあって、静かな狂気を感じさせる、抑えた声で演じていたのが印象的です。辻村氏は『黄金銃を持つ男』のニック・ナックでうってかわったコミカル演技を披露していますので、本DVDシリーズでぜひ見比べてください。

 

 

 『女王陛下の007』のブロフェルドの声は森山周一郎。というのも、あちらの俳優がテリー・サバラスなので、「刑事コジャック」でサバラスの声を担当していた森山氏が起用されたというわけです。サバラスのFIX声優ということで、こちらも安心して観ていられます。思わず「美味いコーヒーを飲んでるのは誰だ」なんて、言っちゃいそうですな(歳がバレます)

 

 

 脇を飾るキャラクターの代表は、やはりM、Q、マニーペニーでしょう。Mの声は今西正男。この方も名声優で、その流暢で自然な喋りは、本当にM役のバーナード・リーが日本語を喋っているのではと思わせるほど。いわゆる"吹替調"とは無縁の演技がすばらしいです。

 

 

 Qの声を担当した田中康郎は、どちらかといえば"マフィア声"。実際、洋画吹替では悪役がほとんどなのですが、そんな声に情報局きっての天才を担当させるギャップが面白いですね。とはいえ、Qといえばこの声しか思い浮かばなくなるほど、最終的にはハマっていったわけですが。

 

 

 マニーペニー役の花形恵子は、情報局の花にふさわしく、とても上品な声質です。時折ボンドをチクリと刺しても嫌味にならないのは、花形氏の品のある声ゆえでしょう。ちなみにロイス・マクスウェルが演じたマネーペニーは、レギュラーとしてはシリーズ最多出演を果たしています。『ドクター・ノオ』から『美しき獲物たち』まで14作品に出演しています。

 

 さて、次回はいよいよTV吹替の各論に入ってゆきましょう。なぜ多くの洋画ファンは、TV吹替に心を動かされるのか? TV吹替は、それ以外の吹替と何が違うのか? 衝撃の事実が明かされる…のか?

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