第一回007 TV吹替声優紹介 〜ボンド編〜
 

 007の主役は、ご存知ジェームズ・ボンド。12月公開の最新作『スカイフォール』も含め、これまで6人の俳優がボンドを演じてきました。そしてTV放送吹替では、10人の声優がボンドを演じてきました……って、数が合わないよ!

 実は、TV放送吹替では放送局の違いなどによって、1人のボンド俳優を複数の声優が演じたものがあり、様々なバリエーションが生まれました。それではボンド俳優ごとに、担当声優の遍歴をみてゆきましょう。

ショーン・コネリー

 「コネリーの声は若山弦蔵」という公式は、吹替ファンでなくとも、ほとんどの方は異論がないと思います。007作品以外でも、若山氏はコネリーの声を多く担当しています。ところが、最初にお茶の間に登場した007の声は若山氏ではなく、日高晤郎でした。1974年4月7日にNET(現・テレビ朝日)系列で放送された『ゴールドフィンガー』で、コネリーの声を担当したのが日高氏なのです。この放送で007作品が日本で初めてTVに登場しました。初ボンド=日高氏だったわけです。

 コネリーの声は野太い低音ですが、日高氏の声は高めで硬質な声。「殺しの番号」を持つボンドを、抑えた演技で冷徹に演じていて、これはこれでアリでした。

 その後、TBSが1975年4月7日が「月曜ロードショー」で『ロシアより愛をこめて』を初放送したときも、コネリー=日高氏が採用されました。これは、どちらも吹替版を東北新社が制作したことと、その前日に「日曜洋画劇場」で『ゴールドフィンガー』日高版の再放送があったからだと思われます。日高氏は現在、北海道の人気ラジオ番組で活躍されています。

 さて、日高コネリーが定着するかと思いきや、同じTBSが1976年3月29日の「月曜ロードショー」で突然コネリー=若山弦蔵の『ロシアより愛をこめて』を放送。日高コネリーにあった硬質感は抜け、プレイボーイにふさわしい適度な軽さを持つボンドが登場しました。若山氏のダンディで低音の声はコネリーの地声に近く、その後は皆さんがご存知のように、コネリーが演じたボンドはすべて若山氏となりました。余談ですがボンドつながりのトリビアを。『皇帝密使』では、若山氏はボンド風のスパイの声を担当しつつ、「スパイ大作戦」で持ち役だったピーター・グレイブスの声もかけもちしていました。

 忘れてならないのが、内海賢二がコネリー・ボンドを担当した『ダイヤモンドは永遠に』(TBS「ザ・ロードショー」1990年6月27日放送)。内海氏といえば、スティーブ・マックイーンやサミー・デイヴィスJr.のFIX声優(ある俳優の声を常に担当する声優)でもあり、「Dr.スランプ アラレちゃん」の則巻千兵衛や、「北斗の拳」のラオウなどアニメでも有名なベテランです。が、さすがにこれはハードルが高すぎたか……? なにせ内海氏は、007シリーズでは『ロシアより愛をこめて』のグラント、『死ぬのは奴らだ』のミスター・ビッグ、『ムーンレイカー』のドラックス、『リビング・デイライツ』のウィティカー、番外編ですが『ネバー・セイ・エバー・アゲイン』のラルゴを担当。007を代表する悪役担当声優です。それがボンドを吹き替えるとは、ボンドが悪役にになってしまうかも(笑)。ところが、これが思いもよらず良かったんです。ちょっと鼻にかかった声でキザに喋る内海氏が、ボンドの色気を見事に表現していて驚きました。

 

ジョージ・レーゼンビー

 二代目ボンドのレーゼンビーは、広川太一郎が声を担当しました。広川氏は『モンティ・パイソン』のエリック・アイドルや『Mr.BOO!』のマイケル・ホイなど、コメディ演技で定評がありますが、さすがにボンド役はシリアスに演じています。演技経験のなかったレーゼンビーが演じるボンドを、広川氏が声の演技でサポートしているので、TV放送吹替で観たほうがボンドに感情移入できるかもしれません。

 

ロジャー・ムーア

 007シリーズのTV放送吹替では、1人の声優だけで固定されいたのはムーア・ボンドのみです。声は広川太一郎。「ムーアの声は広川太一郎」で定着していますが、実は007で広川氏が担当するまでは、いろいろな方が吹き替えていました(「ダンディ2 華麗なる冒険」では、ささきいさお(広川氏は相棒役のトニー・カーティスを担当)、「セイント 天国野郎」では近藤洋介など)。

 ムーア特有のユーモラスな雰囲気と、広川氏の声に親和性があったのか、これはぴったりの配役でした。ムーア特有の、言葉をしゃべるたびに息を吸い込むクセも、広川氏はきちんと再現していて、さすがプロです。

 

ティモシー・ダルトン

 ダルトン・ボンドの声は、小川真司が最初に担当しています。実は1987年に放送された特番『ハッピー・アニバーサリー007』で、チラリと登場するダルトンの声を、既に小川氏が吹き替えていました。『リビング・デイライツ』の初回放送が1993年の9月29日ですから、6年を経て律儀に配役です。その間にも小川=ダルトンのTV放送吹替版があり(『ブレンダ・スター』など)、なんとなくFIXっぽくなっていたことも起用の理由かもしれません。低音でこわもての役も多い小川氏ですが、ボンドの声は軽妙洒脱に演じていました。ちょっと困るのは、小川氏が『トゥモロー・ネバー・ダイ』の初回放送版で、悪役のカーヴァーの声を演じている点でしょうか。

 局が変わって、ダルトン・ボンドも別バージョンが制作されました。「日曜洋画劇場」では、『リビング・デイライツ』でダルトン=鈴置洋孝、『消されたライセンス』で山寺宏一が声を担当しました。鈴置版は、生真面目で冷静なボンド、山寺版は作品内容に合わせて多少ワイルドな雰囲気が出ていました。

 

ピアース・ブロスナン

 ブロスナン・ボンドは、VHS版で担当した神谷明がTV放送吹替でも登板すると思いきや、田中秀幸が登場。「ドカベン」の山田太郎、「白バイ野郎ジョン&パンチ」のジョン、「SLAM DUNK」の木暮公延など、クール系キャラでおなじみの田中氏ですが、ブロスナンのボンドはハードさもウリなので、氏のクールな声は意外に合っています。ちなみに、田中氏は『消されたライセンス』のVHS用の吹替版(本シリーズ商品に収録予定)で、ティモシー・ダルトンの声を演じています。もともとボンドには縁があったんですね。

 CXの「ゴールデン洋画劇場」で放送された『トゥモロー・ネバー・ダイ』では、江原正士がブロスナン・ボンドを担当。既に「日曜洋画劇場」の『ゴールデンアイ』で田中氏が起用された後なので、正直どうかな〜と思いましたが、実際に観てみるとハマりますね。江原氏のビンビン響く低音の声は、ボンドというキャラにはマッチしていました。

 

ダニエル・クレイグ

 過去のボンドとは違い、まだ未熟さが残る、粗削りなボンドを演じたダニエル・クレイグですが、TV放送吹替版では藤真秀が声を担当。ビブラートが効いた低音ボイスがちょっと小川真司の声を思わせますが、渋顔のクレイグにイメージが重なります。藤氏はこれからもクレイグ・ボンドを担当してゆくと思いますので、今後が楽しみです。

 

 というわけで、ざっとボンド担当声優をおさらいしてきました。ここで取り上げたTV放送吹替版は、すべて本シリーズの商品に収録されますので、聞き比べをしてみるのも楽しいかと思います。

 次回は、007 TV吹替声優紹介 〜ボンドガール編〜です。

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